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神の息子

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©Noam Chen

 だが、ときとともにものごとは変わっていく。人々はわれわれのもとを訪れるのをやめ、かつては父しか成し遂げ得なかったことを若い科学者たちがほとんど全て成しおおせるようになり、父にはもう誰も、小さなハト一羽、生贄を捧げてはくれなくなった。
 人々は何かを信じようと忙しくなりだし、新規の競争相手に対して父に勝ち目はなかった。こうしたことは段階的ではあったが、そのたびに顕著になり、毎日、父は外出したし、夜遅くまで書斎にこもっていたが、もうすべきことなどたいしてなくなっていた。
 いまではもう、父は出かけるのをやめてしまっている、ときおり家の界隈を散歩する以外は。一日の大半を白くて長い髭をしごいては、書斎の肘掛け椅子に沈みこみ、ごくたまにテレビを眺めて過ごしている。もう、手紙やプレゼントの類は届かなくなり、ときおり母が、電気や電話の代金請求書を郵便受けからとりだすだけになった。もうパーティに招かれることもないし、界隈に住む人々のほとんどは、ぼくの父を知らない。
 学校で、ぼくはいつもひとりぼっちだ。ときどき、大きい子たちにいじめられる。だが、たいがいはぼくを、変なやつ、とか、気狂いの息子、と呼んで距離を置いている。むかしは大好きだった聖書の授業は永遠に続くがごとき悪夢になった。下校して家に帰ると、いつも、料理をしている母と、肘掛け椅子で髭をしごいている父が見つかる。ときには、父の膝にのっておしゃべりするけれど、父は微笑みかけて、頭を撫でてくれるだけだ。いつだったか、ぼくが自室にいたら、母が父にいう声が聞こえた。
「失業なんて、ありがたいことねえ。あなたの世界が、あなたを解雇したなんてねえ」
 先週、父は新聞配達の仕事を始めた。早朝、父が創った太陽がのぼる前に起きて、車で出かけ、界隈の全戸に新聞を配るのだ。そして、ぼくが学校に出かける前にはもう家に戻っていて、肘掛け椅子に席を占めている。母は冷たいジュースを父にもっていき、それから、ぼくを玄関に送りだす。お昼にぼくが帰ってきても、何も変化なし。こういう父を見るのはかなしい。だが、父が創りだした全てを眺めて、近いうちにこれら全てが自分のものになるんだと思うと、もっと、ずっとかなしい。だが、ほんとのとこは、どうだっていい。ぼくは大学にいって、全世界を武装させるのだ。*

Ha-Ben shel Elohim(The Son of God) from "Parparim Shuhorim"(Black Butterflies), by Nicanor Leonoff, Traklin, Tel Aviv, 2001

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